- Thaler, (1985), "Mental Accounting and Consumer Choice," Marketing Science, Vol.4, pp.199-214.
- Camerer, Babcock, Lowenstein, and Thaler (1997), "Labor Supply of New York City Cab Drivers: One Day at a Time," Quarterly Journal of Economics, Vol.112, pp.407-441.
Mental Accounting とは、ある金額に対する人々の効用が、時や場所、またその受け取り方や支払い方によって、変化することである。例えば、年950万円の給与を、全部を給料として毎月同じ額にわけてもらう場合と、給料800万円+ボーナス150万円でもらう場合を考えてみよう。どちらも同じ年収950万円であるが、2つの場合で消費パターンは同じになるのか?あるいは、効用は変わるのだろうか? やはり、ボーナスとして得た150万円は何か特別なことに使う人が多いのではないか?
これは、限界効用が逓減していることから説明できる。給料800万円とボーナス150万円を別の収入と考えれば、800万円分の効用と150万円分の効用を別々に得ることができるが、一方で950万円の給料として受けるとその分の効用を一度に得ることになる。限界効用は逓減しているので、給料の追加的な150万円の増加はボーナス150万円よりも価値が少ないと言える。
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次に合計してマイナスになる場合を考えるが、ここからさらに2つに分割して考える必要がある。収入に比べて損失がそれほど大きくない場合と、損失があまりに大きい場合である。まず損失がそれほど大きくない場合は、論文中のFigure 1a(右図上)で表されている。この図で、収入を得ると同時に損失を被る方が、収入を得た後で損失を被るよりも、効用が大きいことがわかる。逆に、収入に比べて損失があまりに大きい場合も考えよう。同様にFigure 1b(右下図)において、収入を得た後で損失を被る方が、収入を得ると同時に損失を被るよりも、効用が大きいことが示されている。
Mental Accountingは収入と損失の組み合わせに限られない。要は、心の中で効用を計算することがMental Accountingなのである。よってその他にも、賭けで負けた人が最後に大博打に出ることも、Mental Accountingを用いて、その日その時に意思決定を行っていることを示す。ここで我々はどうやらMental Accountingによって知らない間に支配されているのではないか、ということに気付く。
次の論文は、Mental Accountingの論文が発表されてから10年以上も経った後での論文で、タクシー運転手に関してのデータを集め、分析したものである。具体的には、労働時間と最初の1時間の賃金の弾力性を調べる。経済理論からは、最初の1時間の賃金が高くなれば、その分稼ぐインセンティブが増え、労働時間は長くなり、逆もまた然りであるので、労働時間は賃金に対して弾力的である、ということが予測される。しかし、実際には運転手はその日その日ごとに賃金の達成目標を決め、それが達成され次第、運転をやめるという傾向にあるため、賃金は非弾力的になった。これも運転手が自分の心の中で会計を行っている結果なので、Mental Accountingの効果である。
ここで面白いのは、経験を積んだタクシー運転手と未熟練のタクシー運転手との比較である。経験を積んだ運転手は、未熟練の運転手よりも賃金弾力性が高くなったのだ。これは経験を積むことで、一時間当たりの賃金が高い日にたくさん働き、賃金が低い日には早めに仕事を切り上げることが、より効率的に賃金を得て、余暇を消費できると分かったからである。理論上の計算では賃金と労働時間の弾力性が1になるように運転手が働くと、収益は10%増え、さらにより多くの余暇を消費できることが分かった。
このように、運転手は経験を積むことでMental Accountingから脱却することがわかる。経済理論により近い形へ、実際の人間が次第に近づくことが目に見えてわかるのが、このモデルの醍醐味であろう。
説明には「ハッピー」や「ダメージ」といった自分の言葉に変換して、聴き手にわかりやすく伝えることを心がけました。(舘川裕司)
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