2012年10月24日水曜日

公共経済学06: 間接税のラムゼイルール

ラムゼイルール(最適な物品税・消費税の税率についての理論モデル)、物品税は需要の価格弾力性の逆数に比例するという逆弾力性の命題も導出しました。
 最適課税理論では、必要とされる税収 R を確保しつつ、税によって生じる超過負担・死荷重を最小化することが多いです。価格ベクトルを \mathbf{q} = (q_1, q_2,..., q_n) とすれば、物品税を課すということは要するにこの価格を(課税によって)動かすこと。したがって、政府にとっての最適化問題は次のようになります:
 \max_{\mathbf{t}} V(\mathbf{q},w,M) \text{ subject to } \sum t_ix_i \geq R 
制約式は、税収 \sum t_ix_i が必要とされる金額 R を下回らないこと。目的関数 V は、代表的家計の間接効用関数。これを最大化するということは、必要な税収をあげつつ家計の効用水準を最大化することなので、要するに、超過負担・死荷重を最小化することに等しいわけです。
 この最大化問題をとくことで、ラムゼイ・ルールを得る。特に、交差価格弾力性がゼロであるという特殊かつ簡略化された仮定のもとで最適税率に関して次式を得る。
        \dfrac{t_i}{q_i} = \left(1-\dfrac{\alpha}{\lambda} \right)\dfrac{1}{\varepsilon_i} 
\alpha は所得の限界効用 \frac{\partial V}{\partial I} で、 \lambda はラグランジュ乗数、 \varepsilon は i 財需要の価格弾力性。  i 財への消費税率は、その財の価格弾力性に反比例する。すなわち、消費税(物品税)を決めるときは、「価格弾力性の高い財(たとえば贅沢品)には低い税率で税をかるく、逆に、価格弾力性の低い財(たとえば必需品)には高い税率をかける」ことによって、税によるゆがみ・効率性損失を最小化できるという教えが導かれます。もちろん、ここでは、税のゆがみを最小化したい場合の解なので、公平性の問題はいったんはずしてかんがえています。贅沢品にかるく、必需品におもい消費税は、「金持ち優遇」として批判されうるし現実的ではありません。実際には、食料品などの必需品には軽減税率(低い税率)が適用されることが多いはずです。

練習問題

2012年10月22日月曜日

公共経済学05: 税vs量的規制、公共財としての所得再分配、クラブ財

税vs量的規制、公共財としての所得再分配、クラブ財の3つのトピックを勉強しました。

税vs量的規制は、Weitzman (1974)のモデルを勉強。汚染物質排出を抑制したい状況で、社会にとってのその便益や企業にとってのその費用が確定されていない想定です。税(=汚染物質排出1単位あたり罰金)を科すやりかたがいいのか、それとも排出総量を規制して排出権取引のような規制がいいいのか、論点を整理している。
 それぞれ利点がある。税の利点は、なによりも、企業の最適化行動(つまり罰金に見合った汚染物質削減行動)を織り込むことができること。逆に量的規制だと、汚染削減のコストが当初の想定よりもかなり大きくなってしまった場合でも、事前に取り決めた削減量を守るために多大なコストをかけることになる。それが社会的にみて望ましいかどうかは、社会にとっての便益とつり合いがとれるかどうかにかかっているが、事前にはそれはわからない。
 税方式ならば、便益は考慮されないという欠点はあるものの、事後的な調整が可能であるため、費用が多大にかかってしまう結果を避けることができる。
 税方式がいいか、量的規制がいいか、はもちろん状況次第。このモデルでは、どういった要素が、その決め手となるか(正確にいえば、決め手となりうるか)を考えている。

宿題:[肥やしを盗難していた容疑で2005年4月8日に逮捕された]Weitzman (1974)のモデルを想定しよう。

2012年10月15日月曜日

公共経済学03: メカニズムデザイン・Grovesメカニズム

公共経済学ではメカニズムデザインを使った論理展開がなされるので、その意義(特に顕示原理の)を説明しました。この前提をふまえておかないでモデルを勉強しても、なんでわざわざ誘因両立な直接メカニズムを組んでいるのかわからないのでもったいないです。

そのあと、Grovesメカニズムを勉強しました。各個人が本当はどれだけ公共財から便益をうけているのか(前回のモデルでのθ)がわからないままでも、なにかしらうまいメカニズムがあって、それを通じてサミュエルソン条件を満たすように公共財の供給量を決めることができるはずだ、と教えてくれます。ただし、情報のコストがやっぱりかかるので、その公共財供給のための費用をファイナンスできない(料金徴収をしても赤字になってしまう)という問題がのこされるのです。赤字にならないようにうまく料金体系を調整すればいいのではという気がするかもしれませんが、それは誤解。だって、Grovesメカニズムというざ誘因両立な直接メカニズムで得られた結論なのですから。

2012年10月10日水曜日

公共経済学02: サミュエルソン条件とリンダール均衡

先週の宿題の答え合わせのあと、パレート効率的な公共財の供給水準を勉強しました。いわゆるサミュエルソン条件です。私的財 x と公共財 G があり、その G は x を生産関数 f に投入して生産する。私的財の初期賦存量 X_0 とおき、各個人の私的財消費 x_i をおけば、 G=f(X_0-\sum x_i) となる。
 したがって、パレート効率性条件は次の最大化問題を解くことで得られる。
  \max_{x_1,...,x_N,G} \quad u^1(x_1,G) \quad \text{ subject to}  u^i(x_i,G) \geq \bar{u}^i \text{ and } f(X_0-\sum x_i)\geq G. 
つまり、あえて個人1に着目し、財の配分をすべて操作して「他の人たちの効用水準を下げることなく、個人1の効用水準を最大化する」という問題だ。この1階条件を整理するとサミュエルソン条件がえられる。入門レベルのミクロ経済学で「公共財のときは、各個人の需要曲線を縦に足し合わせる」と習ったことを式で表したもの。
 ただし、この条件の求め方をみればわかるように、中央集権的にすべての財の配分をコントロールしているし、価格や市場は一切でてこない。それに、個人の予算制約式もなければ効用最大化問題も解かれていない。だからあくまでベンチマークとしての条件である。
 そこで、各個人の効用最大化問題を解く分権的メカニズムを考える。ひとつのアイディアがリンダール均衡である。これは各個人に公共財の価格を \tau_i として割り当て、各個人に通常の効用最大化問題を解いてもらう:
  \max_{x_i,G_i} \quad u^i(x_i,G_i) \quad \text{ subject to } p_x x_i + \tau_i G_i \leq M_i. 
そうすれば、各個人の需要関数が導出される。ここで、 \tau_i をうまく設定することで、結果的にいずれの個人も同じ水準の G_i を需要し、さらに生産関数においてその G を生産するのに必要最小限の費用が集まるように誘導する。この \tau がリンダール均衡で、サミュエルソン条件も満たす。もちろん、各個人の効用関数がわからなければ、このように適切に \tau を設定することはできないので、やはりこのアイディアも現実的ではない。ただ、サミュエルソン条件をより分権的なメカニズムのなかで表現しようとすれば、さきほどの最大化問題の設定よりは、リンダール均衡を考えるほうが適しているし、面白い。

宿題は次の通り:
  u^i(x_i,G) = x_i + 2 \theta_i \sqrt{G} 
という効用関数をもつ個人が N 人いるとし、私的財と公共財は1対1で変換可能。パレート効率性をもとめる最大化問題を解くことでサミュエルソン条件をもとめよ。また、リンダール均衡を求めよ。

2012年10月3日水曜日

公共経済学01: 効率性と外部性

公共経済学(Public Economics)は、そのルーツはpublic finance(財政学)にあるわけですが、いまは、市場が"失敗"することを前提とした世界での応用ミクロ経済学だというお話をしました。

厚生経済学の基本定理とパレート最適のお話をおさらい。2人2財交換経済(エッジワースボックス)で市場機構の役割を再確認、効率性の条件をもとめるための最大化問題を定義。

外部性およびピグー税のエクササイズとして次の問題をときました。実はこれPigou(1920)が非効率的な均衡の例として考案したものらしい、これがもととなってPigou税と命名されるわけなんですね。

:X地点からY地点まで行くのに「一般道」と「高速(道)」の2ルートがある。一般道を使うと移動コストはつねに1かかるのに対し、高速を使ったときの移動コストは高速を使った人口αに等しい。したがって、1だけの人口がXからYへ一斉に移動するとき、総移動コストはC=(1-α)×1+(α×α)となる。

a). 各個人が一般道を通るか高速を使うかを自由に選ぶとしよう。このときのナッシュ均衡を考え、αをもとめよ。
b). Cを最小にする最適α*をもとめよ。
c). 各個人の自由意志を尊重しつつCを最小化したい政府が、高速の使用に税金をかけるとする。最適な税額t*をもとめよ。ただし、税はCに含まないものとする。
d). 「外部性」を定義・計算し、最適ピグー税額tを求めよ。t*と比べて論ぜよ。

次に考えた問題はある経済学者から教えてもらったもの:冬に風邪薬(あるいは予防接種)の市場があって、そこで余剰が発生している。ところが春になると風邪は流行らないので、需要がなくなり、余剰もなくなってしまう。さて、この観点から冬と春、どちらが望ましいのか。という問題。モデルを使ってクリアに考えてみましょう。学部2年レベルのミクロ経済学ですが、どこまでできるか。宿題です。