2012年4月24日火曜日

実験経済学03: 限界効用逓減の法則

キーワード:限界効用逓減の法則、サンクトペテルブルクのパラドクス、ヴェーバー‐フェヒナーの法則、うまい棒。

うまい棒ゲーム」をやりました。このゲームでは、コイン投げをして、表がでれば、コイン投げを続けることができます。裏がでた時点でゲームは終わりです。ゲームが終了するまでに、何回(連続して)表が出たかによって、もらえるうまい棒の本数が決まります。いきなり裏が出てしまった場合(表が0回のとき)は、うまい棒が1本もらえます。表が1回だけで次に裏が出てしまったら、2本もらえます。表2回で3回目に裏が出てしまった場合は、4本だけもらえます。このように、連続して出た表の数が1回増えるごとに、ゲーム終了時点でもらえるうまい棒の本数が2倍に増えていくのです。問題は、このゲームに一体いくら払って参加したいか(参加するのにいくらまでなら払いますか)ということ。実際に、早稲田大学の学生さん189人に聞いてみた結果が右のグラフにある通りで、平均83円でした。

ここにパラドックスがあります。実は、理論的には、このゲームの参加費は無限大になってもおかしくないからです。ゲームの参加費を決めるときには、おそらく、「このゲームに参加すれば何本ぐらいのうまい棒が平均してもらえるのだろうか」と考えたことでしょう。ゲームに参加すれば、少なくとも1本のうまい棒はもらえるはず。それよりも多くうまい棒をもらうためには、少なくとも1回は表が出ればいいのだから、確率50%で、2本以上のうまい棒がもらえます。というように考えて、平均何本もらえるかを何となく予想するはずです。計算自体は簡単ですので過程を省きますが、驚くべきことに、平均してもらえるであろう本数は無限大となってしまうのです。だとすれば、ゲームに参加することには無限大の価値がある!? となります。感覚的にも、とてもそれには納得がいきませんし、学生さんが答えた平均83円という数字をどのように解釈すればいいのでしょう。これがベルヌーイが提唱した「サンクトペテルブルクのパラドクス」として知られるパラドクスで、これに対する甥のダニエル・ベルヌーイからの答えが、いま知られる「限界効用逓減の法則」となっています。

200円を払ってゲームに参加
してくれた学生さんのコイン投げ
83円という数字を解釈するひとつの方法が「効用」という概念の導入です。人はうまい棒の本数だけにもとづいて判断するのではなく、そのうまい棒が自分にとってどれだけの価値があるか(それによってどれだけの満足度(効用!)が得られるか)を考えているはず。そこで、うまい棒ゲームでもらえるうまい棒を消費し、その消費から得られる効用の平均値(期待値)を計算するのではないかと思えます。実際に、得られる効用をうまい棒の本数の対数関数 log(x) として、効用の平均値を計算すると、それは無限大にならないことがわかります。

この log(x) という関数はヴェーバー‐フェヒナーの法則にうまく対応しています。刺激の物理量と、人がそれを知覚する強さは比例関係ではなく、対数比例しているという法則です。講義では、117番の時報を聞いてもらいました。時報の「ピピピッピーン」はラの音で、はじめの3つが基準音で、最後のッピーンが1オクターブ高いラの音。前者が440ヘルツ、後者は880ヘルツで周波数が2倍。さらにオクターブ上がれば、2倍の1760ヘルツなんだそうです。周波数(物理量)が2倍になるごとに、人はそれを1オクターブあがったものと知覚します。オクターブのピッチは、人にとって倍数ではなく、等間隔でしょう。これを表すのが対数関数です。

消費量(物理量)と効用(感覚量)についても同じように考えてもいいでしょう。うまい棒の本数(物理量)が増加しても、その効用(感覚量)は比例して増加するわけではありません。むしろ、ヴェーバー‐フェヒナーの法則にしたがえば、うまい棒の本数が2倍になるごとに、その効用は同じ絶対量(水準)だけ増加するということになります。つづきは講義スライドをごらんください。

2012年4月23日月曜日

竹内幹ゼミ 03 AuctionとSearchのモデル

課題1:
Riley and Samuelson (1981). "Optimal Auctions," American Economic Review, 71(3), pp.381-392. の和訳+ノートの作成。

数理モデルの有用性・使う意味を実感してもらうための課題です。教科書などで、簡略化された経済学モデルをたくさんみてきたことと思います。でも、そうしたモデルの多くは、あえてモデルを使わなくても結論がわかるようなものだったり、逆に、モデルの前提が厳しすぎて結論に一般性がなかったりします。前者だと、たとえば、軍拡競争を囚人のジレンマで説明するとか。でも、こんなのは、わざわざ2×2の利得行列を書かなくたって、インセンティブ構造は自明で、日常感覚でわかる事例です。経済学のモデルは、自明な命題を、わざわざややこしく説明する程度なのかと思われた人もいるでしょう。それは残念な誤解です。

そこで、Optimal Auctionsを読んでもらいました。どんなオークション形式を採用するのが、売上(の期待値)を最大化できるか、という非常にわかりやすい経済的な問題を解きます。問題設定はいたってシンプルなのですが、ゲーム論の均衡概念、メカニズムデザインと顕示原理、といろいろな要素が織り込まれていて、さらに、得られる結果はとても強力! それでいて、自明でないし、数理モデルを使ったからこそ得られる最適解なのです。

学部レベルの教科書に載っているモデルを勉強するだけだとなかなか実感できない、数理モデルの"真の"有用性を何度も強調しました。さらに、この1981年のモデルをもとに、いろいろな拡張が行われてきました。そうした学問分野の発展も概観することのできる教材です。
 レクチャーノートをゼミ生がLaTeXで打ち込んできました。すごい!!



課題2:
以下のようなサーチ問題を解きます。

消費者が、ある商品を買おうとして、いろんなお店を順番にまわっていくモデルを考えます。どのお店にもその商品は置いてあるのですが、販売価格がお店ごとに異なります。消費者にとっては、その価格pは確率変数で、0と1の間で一様分布していると考えましょう, i.e., p~U[0,1]。お店で価格をみて、買うか買わないかを決めます。買わないと決めたら、次のお店に行きます、一旦お店を離れたら戻ってくることはできません。もちろん、安ければ安いほどいいのですが、次のお店に行くには、小さいコストCを支払わなければいけないので、いつまでも最安値を探し続ければいいというわけでもないのです。
 さて、ここで、次のような行動モデルを前提とします。
  「販売価格がX未満なら、買う。X以上だったら、買わずに次のお店に行く。」
というもの。日常生活でも十分にありうる購買行動ですね:X円までなら払ってもいいけど、それ以上は支払うつもりはない(買わない)。期待利得を最大にするようなXを事前に決めてお店めぐりをするとしましょう。最適なXはいくらでしょうか。


 この問題は、期待利得を等比級数の和という形で表現でき、それを最大化するような最適な p* を求めることもできます。でも、この問題を解いてもらう目的はそこにはありません。
 なぜ、この問題を解いてもらうかというと、経済学的思考によってはじめて見えてくる「目に見えないもの」の存在を知ってもらうためです。科学は、その分析対象が自然だろうと社会だろうと、まだわれわれがよく認識できないものをひとつひとつ発見し、名前をつけてきました。経済学もそうだよね、実感してほしいです。(Image(s): FreeDigitalPhotos.net

2012年4月17日火曜日

実験経済学02: 市場均衡の実験

前回にひきつづき、実験経済学の入門部分にあたる内容を講義しました。実験経済学(あるいは行動経済学)は、必ずしもこれまでの標準的な経済学やその思考の枠組みを否定するものではないです、ということを解説しました。一橋大学でやった教室内市場実験の結果を紹介し、需要・供給曲線の交点が均衡だとするモデルが、それなりに現実的であることを示しました。


たまに、"合理的で利己的な人間だけを想定しているミクロ経済学は非現実的でまちがっている、だから心理的要素を考慮・加味した行動経済学が正しいんだ"というようなことを見聞きします。実験経済学をやっていると、たしかに標準的な経済学モデルとは全く異なる結果が観察されます。だからといって、そのモデルが"まちがっている"というわけではありません。そういうわけで、はじめにモデルも意外に正しいじゃんということを解説しようと思いました。

教室内市場実験では、実験を行う人(つまり私)だけが需要曲線・供給曲線の形を知っています。そして、売り手役・買い手役の人たちを多数用意します。売り手・買い手は、自分の利益の最大化のみを利己的に考えており、需要曲線や供給曲線がどういった形になっているのかは知りません。したがって、その2つの曲線が交じわる点(均衡価格)がどこにあるのかも知らない。こんな設定です。それでも、「わいわいがやがや」と多数の買い手・売り手が交渉して相対取引を成立させていると、その取引価格の平均は、モデルが予想する均衡価格に非常に近い値になることが知られています。実際、均衡価格60に対して、平均の取引価格は59.4でした。

4042977014ただし、完全競争がないので、ランダムにかつ排他的に1対1の売り手・買い手が価格交渉をはじめるという点に注意。その結果、どうしても、取引数量はモデルの予想よりも多めに出てしまうのです(この確認は自習用練習問題としてとっておきたいです)。それでも、モデルの予想はそれなりに正しいことがわかります。

この本、おすすめです。多くの意見を集約する市場の機能が解説されていたり、実験経済学の結果が多く紹介されています。
「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫)
ジェームズ・スロウィッキー 小高 尚子

2012年4月16日月曜日

竹内幹ゼミ 02


1. Gabaix et al. (2005) Table 1. Optimal searchをみつけて、Table2で答え合わせ。なるほど Z_i に着目すればいいことを確認。2つの戦略の利得を計算。
2. 先週のオークション配布資料の練習問題10。
3. 『ランチタイムの経済学』「スプリングフィールドの水族館」のトリックを見破る。
4. "Optimal Auctions"をがんばってよむ。
5. 『数学は言葉』第1章第2章で示された理念を念頭におきながら、以下の各質問に答えよ。

a) 次の命題の意味を、具体例をつかいながら、わかりやすく説明しよう。
 1) \forall x \in X, \exists y \in Y, x<y .
 2)  \exists x \in X, \forall y \in Y, x<y .
また、それぞれの命題のnegationを書き、解釈しよう。
b) 『広辞苑』で「日常」という語の定義・説明を探しましょう。言い換え語しか載っていない場合は、さらにそれを調べて辿ること。
c) 次の言葉の定義を試みよ:「歩く」「信じる」。
d) 次の命題の証明をしてみましょう「If A=B and B=C, then A=C.」
以上です。

2012年4月11日水曜日

現代経済論「実験経済学」00

ガイダンスなので、実験経済学の意義と意図を解説しました。Revealed Preference, Behaviolarismなどについて概説。 Readingとして、西條辰義「経済学はなぜ実験をしてこなかったのか(PDF)」と Lewin, S.(1996) "Economics and Psychology: Lessons for Our Own Day From the Early Twentieth Century," Journal of Economic Literature, Vol.34, No.3, pp.1293-1323.

2012年4月10日火曜日

実験経済学01: 数当てゲーム

第1回は、イントロとして、数当てゲーム(美人投票ゲーム)にみる合理性という題目で講義しました。

生身の人間は、経済学が想定する合理的で"利己的な"行動をとるわけではありません。かといって、完全にランダムで非合理的な振る舞いをするわけでもないでしょう。生身の人間の行動にも、ある程度の規則性のようなものがあるにちがいありません。その規則性のようなものを、いろいろな実験を通じて理解したいですね。

具体例として取り上げたのが、「数当てゲーム(美人投票ゲーム)」です。ゲームのルールはシンプルです。各参加者が、0~100までのなかから数字を1つ選ぶ。その数字を全員分集計し、平均値を計算します。さらに平均値に0.7をかけて出た数字を当選番号とします。さっき選んだ数字が、この当選番号に一番ちかかった人が勝ち、というルール。

いわゆる"合理的な"想定をもとにナッシュ均衡を考えてみましょう。他の参加者を出しぬいて、少し小さめの数を選ばないとゲームには勝てません。全員が全員とも同じことを考えるとすれば、結局、全員がゼロを選ぶ(選ばざるをえない)という状況になるでしょう。
ところが、実際に教室にいた236人の学生さんに参加してもらったところ、以下の分布図のようになりました(賞金1500円)。平均値は20.75(当選番号は14.53)でした。



さて、ここでみられる"規則性"とはなんでしょうか。たとえば、「みんながテキトーに数字を選ぶなら50ぐらいが平均になるはずだから、自分はその一歩先をいって、35(=50x0.7)を選ぶ」というものや、「そのさらに先を選んで24.5(=35x0.7)を選んだ」という判断です。
などなど...

こんなことをこれから半年、勉強していきます。

2012年4月9日月曜日

竹内幹ゼミ 01

桜がきれいで穏やかな気候だったので、4限は兼松講堂横でゼミ。顔合わせ・自己紹介はすでにゼミ選考の日に行ったので、今日から課題図書の読み合わせ。2年間でみんながどれだけ成長するか楽しみです。指導教員の私は、トレーナーとして精一杯サポートしたい。記念撮影!