「うまい棒ゲーム」をやりました。このゲームでは、コイン投げをして、表がでれば、コイン投げを続けることができます。裏がでた時点でゲームは終わりです。ゲームが終了するまでに、何回(連続して)表が出たかによって、もらえるうまい棒の本数が決まります。いきなり裏が出てしまった場合(表が0回のとき)は、うまい棒が1本もらえます。表が1回だけで次に裏が出てしまったら、2本もらえます。表2回で3回目に裏が出てしまった場合は、4本だけもらえます。このように、連続して出た表の数が1回増えるごとに、ゲーム終了時点でもらえるうまい棒の本数が2倍に増えていくのです。問題は、このゲームに一体いくら払って参加したいか(参加するのにいくらまでなら払いますか)ということ。実際に、早稲田大学の学生さん189人に聞いてみた結果が右のグラフにある通りで、平均83円でした。
ここにパラドックスがあります。実は、理論的には、このゲームの参加費は無限大になってもおかしくないからです。ゲームの参加費を決めるときには、おそらく、「このゲームに参加すれば何本ぐらいのうまい棒が平均してもらえるのだろうか」と考えたことでしょう。ゲームに参加すれば、少なくとも1本のうまい棒はもらえるはず。それよりも多くうまい棒をもらうためには、少なくとも1回は表が出ればいいのだから、確率50%で、2本以上のうまい棒がもらえます。というように考えて、平均何本もらえるかを何となく予想するはずです。計算自体は簡単ですので過程を省きますが、驚くべきことに、平均してもらえるであろう本数は無限大となってしまうのです。だとすれば、ゲームに参加することには無限大の価値がある!? となります。感覚的にも、とてもそれには納得がいきませんし、学生さんが答えた平均83円という数字をどのように解釈すればいいのでしょう。これがベルヌーイが提唱した「サンクトペテルブルクのパラドクス」として知られるパラドクスで、これに対する甥のダニエル・ベルヌーイからの答えが、いま知られる「限界効用逓減の法則」となっています。
200円を払ってゲームに参加 してくれた学生さんのコイン投げ |
この log(x) という関数はヴェーバー‐フェヒナーの法則にうまく対応しています。刺激の物理量と、人がそれを知覚する強さは比例関係ではなく、対数比例しているという法則です。講義では、117番の時報を聞いてもらいました。時報の「ピピピッピーン」はラの音で、はじめの3つが基準音で、最後のッピーンが1オクターブ高いラの音。前者が440ヘルツ、後者は880ヘルツで周波数が2倍。さらにオクターブ上がれば、2倍の1760ヘルツなんだそうです。周波数(物理量)が2倍になるごとに、人はそれを1オクターブあがったものと知覚します。オクターブのピッチは、人にとって倍数ではなく、等間隔でしょう。これを表すのが対数関数です。
消費量(物理量)と効用(感覚量)についても同じように考えてもいいでしょう。うまい棒の本数(物理量)が増加しても、その効用(感覚量)は比例して増加するわけではありません。むしろ、ヴェーバー‐フェヒナーの法則にしたがえば、うまい棒の本数が2倍になるごとに、その効用は同じ絶対量(水準)だけ増加するということになります。つづきは講義スライドをごらんください。
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