2012年11月21日水曜日

公共経済学12: 最適労働所得税・賃金が内生変数のモデル2

前回(公共経済学11)のつづきです。
さて、政府の目的は次のような社会厚生の最大化であるとする。
 n_NU_N + \mu n_SU_S 
ここで \mu は政府の平等性選好を表すパラメータで、 0<\mu<1 と考える。この社会厚生関数は、一見すると、個人について対称ではなく、個人 N を無条件に優遇する形となっている。しかし、政府は必ずしも個人 N を無条件に優遇しているわけではない。あくまでも、これは2人モデルで最適値周りの限界条件だけを考える場合のモデル化である。つまり、標準的な社会厚生関数で原点に対して凸なものを念頭におき、 S の厚生水準のほうが N よりも高い状態で局所的に直線で近似する。すると、最適値における S と N の効用のトレードオフが表され、上記のような社会厚生関数になるはずだ。 一方、政府にとっての制約式は2種類ある。1つ目は、税収制約で n_NT_N +n_ST_S\geq R 。2つ目は誘引両立性制約で、
 Y_S - T_S - v\left( \frac{Y_S}{w_S} \right) \geq Y_N - T_N - v\left( \frac{Y_N}{w_S} \right), 
 Y_N - T_N - v\left( \frac{Y_N}{w_N} \right) \geq Y_S - T_S - v\left( \frac{Y_S}{w_N} \right). 
を考える。ただし、最適解においては、税収制約は等号で成立している。また、 S についての誘引両立性制約が成り立てば、 N についてのそれは自動的に成立するので、後者は無視してよい。そして、 S についての誘引両立性制約は、最適解において等号で成立する。この2つの等式を使って、 T_N と T_S を目的関数から消去しよう。すると、
 n_N \left( Y_N-v\left( \frac{Y_N}{w_N}  \right) \right) +  \mu n_S \left( Y_S-v\left( \frac{Y_S}{w_S}  \right) \right)  + \frac{n_Nn_S(1-\mu)}{n_N+n_S}D .
ただし、 D=Y_S - Y_N - \left(v(Y_S/w_S) - v(Y_N/w_S)   \right) である。

練習問題4:政府の目的関数から T_N と T_S を消去して、上式を導出せよ。
前回の練習問題3でみたように、 w_S-v'(L_S) を考えたいので、政府の目的関数を L_S に関して全微分する。最適値周りでは、その値はゼロとなるはずだ。すなわち、 \frac{d}{d L_S}[\quad \cdot \quad ]=0 . これを計算することによって、 w_S-v'(L_S) < 0 が得られる。   

練習問題7:この不等式を導出せよ。
練習問題8:個人 S が直面する限界税率の正負を判断し、理由を説明せよ。

2012年11月19日月曜日

公共経済学11: 最適労働所得税・賃金が内生変数のモデル

前回講義で扱った標準的モデルでは、「賃金が最も高い個人については、その限界税率はゼロ」とすべきだという結論が得られました。ただし、ゼロにすべきなのは、あくまでも追加的に所得が増加したときにその増加分にかかる税金の割合を意味する「限界税率」であって、収入に占める課税額の割合「平均税率」ではありません。
 そこでは賃金は外生的に与えられていて、固定されていました。ですが、もう少し一般的に考えれば、賃金は市場で決まるはず、それが経済学の基本。労働供給に応じて、均衡賃金も変動するわけです。労働所得税が課せられると、一般に、労働供給量は変化します。その変化によって、他の労働者の賃金にも間接的に影響を与えることになります。この賃金変動の効果を考えた時、賃金が最も高い人にかかる限界税率はどのようになるのでしょうか。以下のモデルで考えてみます(Salanie, B. The Economics of Taxationより)。
 個人は、Skilled または Non-skilled のいずれかのタイプに属していると仮定し、それぞれを Sおよび N で表記する。まず、次のような1次同次の生産関数を考えよう。
   Q = F(n_N L_N, n_S L_S) .
ここで n_i はタイプ i の個人の人数、 L_i はタイプ i 1人当たりの労働供給量としよう。1次同次なので、 
Q = F(n_N L_N, n_S L_S)=n_N L_N\cdot F\left( \frac{n_N L_N}{n_N L_N}, \frac{n_S L_S}{n_N L_N} \right) 
   =n_N L_N\cdot F\left( 1, \frac{n_S L_S}{n_N L_N} \right) = n_N L_N\cdot f\left( \ell \right)  
と変形する。ただし、 \ell=n_S L_S/n_N L_N であり、 f\left( \ell \right)=F\left( 1, \ell \right) とおく。

さて、賃金率は労働市場が均衡するように決定されるので、
  w_N = \frac{\partial F}{\partial (n_N L_N)}  および  w_S = \frac{\partial F}{\partial (n_S L_S)}  となる。また、 F が1次同次であるとの仮定より、
  F(n_N L_N, n_S L_S) = n_N L_N  \frac{\partial F}{\partial (n_N L_N)} + n_S L_S  \frac{\partial F}{\partial (n_S L_S)} 
である。したがって、
  w_N = f(\ell) - \ell \cdot f'(\ell) 
  w_S = f'(\ell) .

宿題1:賃金率が上式のように表されることを示せ。

2012年10月24日水曜日

公共経済学06: 間接税のラムゼイルール

ラムゼイルール(最適な物品税・消費税の税率についての理論モデル)、物品税は需要の価格弾力性の逆数に比例するという逆弾力性の命題も導出しました。
 最適課税理論では、必要とされる税収 R を確保しつつ、税によって生じる超過負担・死荷重を最小化することが多いです。価格ベクトルを \mathbf{q} = (q_1, q_2,..., q_n) とすれば、物品税を課すということは要するにこの価格を(課税によって)動かすこと。したがって、政府にとっての最適化問題は次のようになります:
 \max_{\mathbf{t}} V(\mathbf{q},w,M) \text{ subject to } \sum t_ix_i \geq R 
制約式は、税収 \sum t_ix_i が必要とされる金額 R を下回らないこと。目的関数 V は、代表的家計の間接効用関数。これを最大化するということは、必要な税収をあげつつ家計の効用水準を最大化することなので、要するに、超過負担・死荷重を最小化することに等しいわけです。
 この最大化問題をとくことで、ラムゼイ・ルールを得る。特に、交差価格弾力性がゼロであるという特殊かつ簡略化された仮定のもとで最適税率に関して次式を得る。
        \dfrac{t_i}{q_i} = \left(1-\dfrac{\alpha}{\lambda} \right)\dfrac{1}{\varepsilon_i} 
\alpha は所得の限界効用 \frac{\partial V}{\partial I} で、 \lambda はラグランジュ乗数、 \varepsilon は i 財需要の価格弾力性。  i 財への消費税率は、その財の価格弾力性に反比例する。すなわち、消費税(物品税)を決めるときは、「価格弾力性の高い財(たとえば贅沢品)には低い税率で税をかるく、逆に、価格弾力性の低い財(たとえば必需品)には高い税率をかける」ことによって、税によるゆがみ・効率性損失を最小化できるという教えが導かれます。もちろん、ここでは、税のゆがみを最小化したい場合の解なので、公平性の問題はいったんはずしてかんがえています。贅沢品にかるく、必需品におもい消費税は、「金持ち優遇」として批判されうるし現実的ではありません。実際には、食料品などの必需品には軽減税率(低い税率)が適用されることが多いはずです。

練習問題