前回講義で扱った標準的モデルでは、「賃金が最も高い個人については、その限界税率はゼロ」とすべきだという結論が得られました。ただし、ゼロにすべきなのは、あくまでも追加的に所得が増加したときにその増加分にかかる税金の割合を意味する「限界税率」であって、収入に占める課税額の割合「平均税率」ではありません。
そこでは賃金は外生的に与えられていて、固定されていました。ですが、もう少し一般的に考えれば、賃金は市場で決まるはず、それが経済学の基本。労働供給に応じて、均衡賃金も変動するわけです。労働所得税が課せられると、一般に、労働供給量は変化します。その変化によって、他の労働者の賃金にも間接的に影響を与えることになります。この賃金変動の効果を考えた時、賃金が最も高い人にかかる限界税率はどのようになるのでしょうか。以下のモデルで考えてみます(Salanie, B. The Economics of Taxationより)。
個人は、Skilled または Non-skilled のいずれかのタイプに属していると仮定し、それぞれを および で表記する。まず、次のような1次同次の生産関数を考えよう。
.
ここで はタイプ の個人の人数、 はタイプ 1人当たりの労働供給量としよう。1次同次なので、
と変形する。ただし、 であり、 とおく。
さて、賃金率は労働市場が均衡するように決定されるので、
および となる。また、 が1次同次であるとの仮定より、
である。したがって、
.
宿題1:賃金率が上式のように表されることを示せ。
ここで、労働供給量の変化が賃金率に与える影響について整理しておこう。
である。
同様に、
宿題2:上の3式の右辺を求めよ。
ここでも、直接メカニズムを考えるので、個人の効用は消費水準 および労働所得 にのみ依存すると捉え直すことができる(この変換の意義については、以前の講義で解説したとおりなので、今回は触れません)。すると、個人の効用関数は次のように定義することもできる。
.
この第2項の解釈は次のようになる。まず、 は個人 が労働所得 を稼ぐのに必要な労働供給量である。そして、 はその労働の不効用だと考えることができる。なお、税額を とすれば、 である。
宿題3: は何を意味するのか考えたうえで、これと限界税率の関係について述べよ。
0 件のコメント:
コメントを投稿