Riley and Samuelson (1981). "Optimal Auctions," American Economic Review, 71(3), pp.381-392. の和訳+ノートの作成。
数理モデルの有用性・使う意味を実感してもらうための課題です。教科書などで、簡略化された経済学モデルをたくさんみてきたことと思います。でも、そうしたモデルの多くは、あえてモデルを使わなくても結論がわかるようなものだったり、逆に、モデルの前提が厳しすぎて結論に一般性がなかったりします。前者だと、たとえば、軍拡競争を囚人のジレンマで説明するとか。でも、こんなのは、わざわざ2×2の利得行列を書かなくたって、インセンティブ構造は自明で、日常感覚でわかる事例です。経済学のモデルは、自明な命題を、わざわざややこしく説明する程度なのかと思われた人もいるでしょう。それは残念な誤解です。
そこで、Optimal Auctionsを読んでもらいました。どんなオークション形式を採用するのが、売上(の期待値)を最大化できるか、という非常にわかりやすい経済的な問題を解きます。問題設定はいたってシンプルなのですが、ゲーム論の均衡概念、メカニズムデザインと顕示原理、といろいろな要素が織り込まれていて、さらに、得られる結果はとても強力! それでいて、自明でないし、数理モデルを使ったからこそ得られる最適解なのです。
学部レベルの教科書に載っているモデルを勉強するだけだとなかなか実感できない、数理モデルの"真の"有用性を何度も強調しました。さらに、この1981年のモデルをもとに、いろいろな拡張が行われてきました。そうした学問分野の発展も概観することのできる教材です。
レクチャーノートをゼミ生がLaTeXで打ち込んできました。すごい!!
課題2:
以下のようなサーチ問題を解きます。
消費者が、ある商品を買おうとして、いろんなお店を順番にまわっていくモデルを考えます。どのお店にもその商品は置いてあるのですが、販売価格がお店ごとに異なります。消費者にとっては、その価格pは確率変数で、0と1の間で一様分布していると考えましょう, i.e., p~U[0,1]。お店で価格をみて、買うか買わないかを決めます。買わないと決めたら、次のお店に行きます、一旦お店を離れたら戻ってくることはできません。もちろん、安ければ安いほどいいのですが、次のお店に行くには、小さいコストCを支払わなければいけないので、いつまでも最安値を探し続ければいいというわけでもないのです。
さて、ここで、次のような行動モデルを前提とします。
「販売価格がX未満なら、買う。X以上だったら、買わずに次のお店に行く。」
というもの。日常生活でも十分にありうる購買行動ですね:X円までなら払ってもいいけど、それ以上は支払うつもりはない(買わない)。期待利得を最大にするようなXを事前に決めてお店めぐりをするとしましょう。最適なXはいくらでしょうか。
この問題は、期待利得を等比級数の和という形で表現でき、それを最大化するような最適な p* を求めることもできます。でも、この問題を解いてもらう目的はそこにはありません。
なぜ、この問題を解いてもらうかというと、経済学的思考によってはじめて見えてくる「目に見えないもの」の存在を知ってもらうためです。科学は、その分析対象が自然だろうと社会だろうと、まだわれわれがよく認識できないものをひとつひとつ発見し、名前をつけてきました。経済学もそうだよね、実感してほしいです。(Image(s): FreeDigitalPhotos.net)
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