2012年5月8日火曜日

実験経済学04:公平性・最後通牒ゲーム・神経経済学


Insula animation
島皮質(耳の上あたりの赤い部分)は
肉体的苦痛を受け賦活する。
それが不公平な扱いを受けたときに
賦活したとのこと。
キーワード:公平性、最後通牒ゲーム、独裁者ゲーム、利他的選好、不平等回避、非帰結主義、神経経済学。

公平性は、経済学のなかでも、現実の経済現象や経済的意思決定を考えるうえでも、きわめて重要です。まずはその導入として、公平性を考える代表的なゲームとして有名な「最後通牒ゲーム」を考えました。

このゲームは、1000円を2人で分ける状況で、1人が分け方を提案し、もう1人がそれに承認・拒否をして決めるというもの。受け手が承認すれば提案どおりに1000円を分けますが、受け手が拒否すれば1000円は没収されてしまい2人とも何ももらえません。
分け方を提案する人を「提案者(proposer)」、 承認・拒否 を選ぶ人を「受け手(responder)」といいます。

提案者としては、自分に多く残したいと考えます。でも、あまり不公平な分け方を提案すると、受け手がへそをまげてしまい拒否されかねません。それに、自分だけが多くもらうような提案も、なんだか受け手の人に申し訳ない気がしてきます。

「おまえの取り分はこれだけだ」
このように考えるためか、多くの経済実験で、提案者は5:5や、6:4などの比較的公平な分け方を提案しています。では、提案者は受け手の気持ちを考えて不公平な分配はいけないことだと思っているから公平な提案をするのでしょうか。それとも、不公平な提案をすると、受け手が拒否してしまうことを恐れているだけなのでしょうか。前者は、提案者に利他的な心(公平性)があることを意味しますが、後者ならば、単にリスク回避のために公平を装っているだけということになります。

この2つの動機をわけて考えるのに便利なのが、「独裁者ゲーム」です。

ゲームのルールは、最後通牒ゲームとほとんど同じです。ただし、受け手は、承認・拒否を選ぶことができません。ただ、提案者が分け方を決めて、その提案にそって1000円が2人の間で分配されます。提案者役の人は、いわば独裁者のように分配を勝手に決めてしまうわけです。この独裁者ゲームでは、提案者の多くが、9:1のような不公平な分配を選択してしまいます。最後通牒ゲームでみせた公平性は、まあ見せかけの利他心だったといえそうです。でも、6:4というような比較的公平な分配を選ぶ提案者も少数います。彼らには、利他的な心がありそうですね。
提案者から受け手への分配金額
左図が最後通牒ゲーム(拒否権あり)、右図が独裁者ゲームでの結果。
拒否権ありだと比較的公平な分配が提案されるものの...。
このように、ゲームの条件を変えていくことで、ゲームのプレイヤーの動機をあぶりだしていくのも実験経済学(そして、もちろん心理学)のしごとです。

その後、不平等回避の選好を加味した効用関数や、非帰結主義的な考え方、神経経済学の実験結果を紹介しました。


最終的な利益だけを単純に利得関数にいれるのは、プロセス(どうしてその利益を得るにいたったか)を重視しない、いわば帰結主義的なアプローチです。現実には、プロセスを重視して人々は意思決定しているので、非帰結主義的な評価をしているはず。たとえば、クイズを事前にやって、そのクイズの高得点者を提案者にしてあげるような場合。このケースでは、提案者の取り分が多くなることについて、提案者と(クイズの得点が低かった)受け手の間には、暗黙の合意が成り立つようです。あるいは、別の選択肢があって、1)公平な分配提案をできるにもかかわらず不公平な(8:2)を提案してきたとき、と 2)もっと不公平な提案ができたにもかかわらず不公平な(8:2)を提案してきたとき、とではん、(8:2)を受け手が拒否する頻度は大きく変わります。

また、神経経済学の研究として、2つ実験結果を紹介しました。受け手が不公平な分配提案をされたときの脳の活動をみると、島皮質という箇所の活動水準があがっていることがわかりました。この島皮質は、通常は、肉体的苦痛や肉体的な不快感を受けたときに活動レベルがあがる部分です。不公平な提案をされるという社会的な苦痛・不快も同様であることがわかりました。また、緩やかな傾向ですが、島皮質の活動があがった人ほど、その不公平な提案を拒否していました。

もう1つの実験結果は、講義スライドを参照してください。

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