2012年10月15日月曜日

公共経済学03: メカニズムデザイン・Grovesメカニズム

公共経済学ではメカニズムデザインを使った論理展開がなされるので、その意義(特に顕示原理の)を説明しました。この前提をふまえておかないでモデルを勉強しても、なんでわざわざ誘因両立な直接メカニズムを組んでいるのかわからないのでもったいないです。

そのあと、Grovesメカニズムを勉強しました。各個人が本当はどれだけ公共財から便益をうけているのか(前回のモデルでのθ)がわからないままでも、なにかしらうまいメカニズムがあって、それを通じてサミュエルソン条件を満たすように公共財の供給量を決めることができるはずだ、と教えてくれます。ただし、情報のコストがやっぱりかかるので、その公共財供給のための費用をファイナンスできない(料金徴収をしても赤字になってしまう)という問題がのこされるのです。赤字にならないようにうまく料金体系を調整すればいいのではという気がするかもしれませんが、それは誤解。だって、Grovesメカニズムというざ誘因両立な直接メカニズムで得られた結論なのですから。

2012年10月10日水曜日

公共経済学02: サミュエルソン条件とリンダール均衡

先週の宿題の答え合わせのあと、パレート効率的な公共財の供給水準を勉強しました。いわゆるサミュエルソン条件です。私的財 x と公共財 G があり、その G は x を生産関数 f に投入して生産する。私的財の初期賦存量 X_0 とおき、各個人の私的財消費 x_i をおけば、 G=f(X_0-\sum x_i) となる。
 したがって、パレート効率性条件は次の最大化問題を解くことで得られる。
  \max_{x_1,...,x_N,G} \quad u^1(x_1,G) \quad \text{ subject to}  u^i(x_i,G) \geq \bar{u}^i \text{ and } f(X_0-\sum x_i)\geq G. 
つまり、あえて個人1に着目し、財の配分をすべて操作して「他の人たちの効用水準を下げることなく、個人1の効用水準を最大化する」という問題だ。この1階条件を整理するとサミュエルソン条件がえられる。入門レベルのミクロ経済学で「公共財のときは、各個人の需要曲線を縦に足し合わせる」と習ったことを式で表したもの。
 ただし、この条件の求め方をみればわかるように、中央集権的にすべての財の配分をコントロールしているし、価格や市場は一切でてこない。それに、個人の予算制約式もなければ効用最大化問題も解かれていない。だからあくまでベンチマークとしての条件である。
 そこで、各個人の効用最大化問題を解く分権的メカニズムを考える。ひとつのアイディアがリンダール均衡である。これは各個人に公共財の価格を \tau_i として割り当て、各個人に通常の効用最大化問題を解いてもらう:
  \max_{x_i,G_i} \quad u^i(x_i,G_i) \quad \text{ subject to } p_x x_i + \tau_i G_i \leq M_i. 
そうすれば、各個人の需要関数が導出される。ここで、 \tau_i をうまく設定することで、結果的にいずれの個人も同じ水準の G_i を需要し、さらに生産関数においてその G を生産するのに必要最小限の費用が集まるように誘導する。この \tau がリンダール均衡で、サミュエルソン条件も満たす。もちろん、各個人の効用関数がわからなければ、このように適切に \tau を設定することはできないので、やはりこのアイディアも現実的ではない。ただ、サミュエルソン条件をより分権的なメカニズムのなかで表現しようとすれば、さきほどの最大化問題の設定よりは、リンダール均衡を考えるほうが適しているし、面白い。

宿題は次の通り:
  u^i(x_i,G) = x_i + 2 \theta_i \sqrt{G} 
という効用関数をもつ個人が N 人いるとし、私的財と公共財は1対1で変換可能。パレート効率性をもとめる最大化問題を解くことでサミュエルソン条件をもとめよ。また、リンダール均衡を求めよ。

2012年10月3日水曜日

公共経済学01: 効率性と外部性

公共経済学(Public Economics)は、そのルーツはpublic finance(財政学)にあるわけですが、いまは、市場が"失敗"することを前提とした世界での応用ミクロ経済学だというお話をしました。

厚生経済学の基本定理とパレート最適のお話をおさらい。2人2財交換経済(エッジワースボックス)で市場機構の役割を再確認、効率性の条件をもとめるための最大化問題を定義。

外部性およびピグー税のエクササイズとして次の問題をときました。実はこれPigou(1920)が非効率的な均衡の例として考案したものらしい、これがもととなってPigou税と命名されるわけなんですね。

問:X地点からY地点まで行くのに「一般道」と「高速(道)」の2ルートがある。一般道を使うと移動コストはつねに1かかるのに対し、高速を使ったときの移動コストは高速を使った人口αに等しい。したがって、1だけの人口がXからYへ一斉に移動するとき、総移動コストはC=(1-α)×1+(α×α)となる。

a). 各個人が一般道を通るか高速を使うかを自由に選ぶとしよう。このときのナッシュ均衡を考え、αをもとめよ。
b). Cを最小にする最適α*をもとめよ。
c). 各個人の自由意志を尊重しつつCを最小化したい政府が、高速の使用に税金をかけるとする。最適な税額t*をもとめよ。ただし、税はCに含まないものとする。
d). 「外部性」を定義・計算し、最適ピグー税額tを求めよ。t*と比べて論ぜよ。

次に考えた問題はある経済学者から教えてもらったもの:冬に風邪薬(あるいは予防接種)の市場があって、そこで余剰が発生している。ところが春になると風邪は流行らないので、需要がなくなり、余剰もなくなってしまう。さて、この観点から冬と春、どちらが望ましいのか。という問題。モデルを使ってクリアに考えてみましょう。学部2年レベルのミクロ経済学ですが、どこまでできるか。宿題です。

2012年7月18日水曜日

実験経済学15: Addiction・依存症のモデル

私は今回の講義でaddictionという分野の行動経済学におけるモデルを解説しました。ここでのaddictionとは誘惑や依存といった行動を意味しています。従来の経済学では「人間は合理的に意思決定を行う」という前提を置いていたが、それではaddictionという非合理的に見える現象をうまく説明できなかった。それらに対して行動経済学的な視点からモデルを構築した2つの論文を紹介しました。 1つ目の論文は Gul and Pesendorfer (2001)の"Temptation and self-control"です。 この論文の功績は、「誘惑がコストになる」ことをシンプルな公理で示し、それを表す効用関数を導いた点である。このモデルでは2つの効用関数を用いる。uはメニュー単体に対する消費者の評価値、vはメニューの誘惑に対する消費者の評価値を表している。ここで、誘惑される消費者の性質として「選好の中間性」という公理をおく。これは「 であれば即ち である」という消費者が誘惑される場合の選好関係を表している。 この公理に基づいてモデルを構築すると、誘惑される消費者の効用関数は以下のように導かれる。消費者はこの関数に基づき意思決定を行う。

 

ハンバーガーとサラダを例に取り、以下の数値例を置く。

サラダ(salad)
ハンバーガー(burger)
u
10
1
v
2
8

これらの数値は、サラダの方がハンバーガーより自分の健康にとって望ましいが、 ハンバーガーの方がサラダよりも消費者を誘惑する、という仮定を表している。 メニューが{サラダ(salda)}のとき、 そのメニューの価値は上式より、
 
となる。 しかし、メニューが{サラダ、ハンバーガー}のとき、 
 
となってしまう 両者を比較すると、消費者にとっては前者のメニューのほうが高い効用が得られることが分かる。 この消費者はどちらの店に行ってもサラダを選択するが、そこにハンバーガーという「誘惑」が存在すると、誘惑に打ち勝たなければならないため効用が減少してしまう。これが「誘惑のコスト」である。

2つ目の論文はBernheim and Rangel (2004) "Addiction and cue-triggered decision processes"です。 人間の意思決定プロセスには合理的な状態と非合理的な状態の2種類があり、後者はある種のトリガーによって引き起こされるというモデル。つまり、効用最大化に基づいた意思決定をしていても、トリガーとなる刺激によって外生的に消費者は依存行動に陥ることがあるという設定である。変数として生活様式、消費者の依存レベルや中毒財の依存性を用いており、中毒財の消費行動を上手く表現している。また、中毒財の宣伝規制やタバコのパッケージに関する規定など、消費者の意思決定に影響を与える施策も説明している。さらに、このモデルを用いて、中毒財に対する政策についても議論している。主な政策としては中毒財への課税と依存行動による損害への補助金の2つが考えられるが、中毒財の性質によって適切な政策は異なる。例えば、コカインやヘロインのように最初の使用が衝動的であり、かつ依存レベルの上昇に伴い意図的に対象を使用するようになる場合は補助金が有効であると主張している。一方、タバコやアルコールのように日常的に使用され、依存性の変化が少ない場合には課税が有効であると主張している。  

以上の例のように行動経済学においてはモデル構築を適切に行うことで、依存のような一見非合理的な行動も、最適化行動を前提としたモデルを用いて分析可能であることがわかります。

参考文献
 (石井大河)

2012年7月11日水曜日

実験経済学14: 神経経済学をつかむ

「神経経済学をつかむ」というタイトルで、その歴史、手法、研究例を紹介しました。
 神経経済学は、経済学と認知神経科学にそのルーツを持っています。それぞれの分野が今までの研究の行き詰まりを解消すべく、新しいパラダイムを探す中で、お互いに出会ったのでした。
 1930年代から50年代にかけて、経済学では新古典派・顕示選好理論派と呼ばれる考え方が主流になっていました。1960年代に入ると、実際の人間の行動と、これらの理論から導かれる予想とが乖離していることを示す実証(アレのパラドクスなど)が発表されるようになりました。この矛盾を解消しようという試みの中から、行動経済学、実験経済学、そして神経経済学が生まれます。
 新古典派・顕示選好理論派の考え方のひとつの特徴に、「人の頭の中をブラックボックスとしている」ことがあります。選択行動の結果のみから選好関係がわかる、という前提から出発して理論を組み立てているのです(顕示選好理論)。ここに心理学の知見を応用し、選好関係が生まれる過程についての理論を作ったのが行動経済学です。また、人間の行動についての理論であるにもかかわらず、実証してこなかったという特徴もあります。ここに注目し、心理学実験の手法を応用して経済理論の妥当性を検証していこうとしているのが実験経済学です。経済学から見た神経経済学は、この実験経済学の手法を用いて、行動経済学の理論を検証しようとする試みの中で生まれました。
一方、認知神経科学では、1980年代に観測機器が急速な進歩を遂げたことに伴い、意識と脳の働きに関するモデルが乱立しており、統一理論の必要性が叫ばれていました。そこへ1996年、ある研究者によって経済学理論が持ち込まれ、初めての神経経済学的論文が出版されます。認知神経科学から見た神経経済学はここに成立します。
 その5年後、2001年には神経科学の知識を応用した経済学の論文が発表されます。その後数年の間に、神経科学で人間の意思決定を解き明かそうとする研究者たちが一同に会する機会が数多く持たれ、2003年の会合で、この分野を「神経経済学(neuroeconomics)」と呼ぶことが決まります。翌2004年には神経経済学会が組織され、神経経済学は学問分野として確立するに至りました。以下は1990年から2006年までの、神経科学の文献に掲載された意思決定に関する論文の数のグラフです。2000年代に入ってから、神経経済学が急速に関心を持たれている様子がわかります(Figure 1)。
ところで、神経経済学の研究はどのように行われているのでしょうか。まず、元になるのは、心理学や経済学、認知神経科学の理論です。それらの理論を、fMRI, PET, tDCS, TMSという機器で脳の血流量を測定/変化させることで実証していきます。近年の研究では、手術や薬剤投与の必要がなく、脳の深部まで詳細に観察することができるfMRIが多く使われています。しかしfMRIにも短所が存在します。fMRIは脳の中の血流量を測定する機械なので、あくまで「ある部分に他よりも多くの血液が集まっている」ということしかわからないのです。そこで用いられるのがtDCSやTMSといった機器です。これらは電流や電磁誘導を用いて特定の部位の活動を直接コントロールする機器なので、fMRIでの測定結果をより詳細に検証することができます。
たとえば、Sanfey et al. (2003) は、fMRIを用いて最後通牒ゲームを行っている最中の被験者の脳の賦活を測定するという実験を行いました。ここでは、不公平な提案を受諾するか判断する際には、左右の前頭前野背外側部(DLPFC)と呼ばれる部位が賦活することが示されています。Knoch et al. (2006) ではこれを検証すべく、TMSを用いて左右のDLPFCの賦活をそれぞれ抑制する実験を行いました。その結果、右のDLPFCを抑制した場合にのみ、不公平な提案を受諾する率が上がるということがわかりました。fMRIの実験からはわからなかった、左右のDLPFCの役割の違いが示唆される結果となりました。
 ここまで、神経経済学の成り立ちと研究の様子を大まかにご紹介しました。二つの異質な分野から生まれた神経経済学は、そのルーツである認知神経科学、経済学からも根強い批判を受けています。内部でも統一がとれているわけではなく、研究方針を巡る論争も続いています。それでも、人間の意思決定の大元に近い脳の様子にまで踏み込む研究手法を武器に、意思決定の理論に大きな影響を与えていくでしょう。今後も目が離せない、刺激的な分野です。(執筆・発表担当: 川口いりえ)

参考文献
  • Paul W. Glimcher, Colin Camerer, Ernst Fehr, and Russell Poldrack. 2008. "Introduction: A Brief History of Neuroeconomics." Chap 22 in Neuroeconomics: Decision Making and the Brain, ed. P. W. Glimcher, E. Fehr, C. Camerer, and R. A. Poldrack. New York: Elsevier.
  • Daria Knoch, Alvaro Pascual-Leone, Kaspar Meyer, Valerie Treyer, and Ernst Fehr. 2006. "Diminishing reciprocal fairness by disrupting the right prefrontal cortex." Science, 314 (5800), 829-832.
  • Alan G. Sanfey, James K. Rilling, Jessica A. Aronson, Leigh E. Nystrom, and Jonathan D. Cohen. 2003. "The Neural Basis of Economic Decision-Making in the Ultimatum Game." Science, 300 (5626), 1755-1758.

2012年7月4日水曜日

実験経済学13: Mental Accounting

この講義では2本の論文、
を用いて、Mental Accountingを紹介し、それを応用した実験例を説明しました。

Mental Accounting とは、ある金額に対する人々の効用が、時や場所、またその受け取り方や支払い方によって、変化することである。例えば、年950万円の給与を、全部を給料として毎月同じ額にわけてもらう場合と、給料800万円+ボーナス150万円でもらう場合を考えてみよう。どちらも同じ年収950万円であるが、2つの場合で消費パターンは同じになるのか?あるいは、効用は変わるのだろうか? やはり、ボーナスとして得た150万円は何か特別なことに使う人が多いのではないか?
これは、限界効用が逓減していることから説明できる。給料800万円とボーナス150万円を別の収入と考えれば、800万円分の効用と150万円分の効用を別々に得ることができるが、一方で950万円の給料として受けるとその分の効用を一度に得ることになる。限界効用は逓減しているので、給料の追加的な150万円の増加はボーナス150万円よりも価値が少ないと言える。
 この効用の違いを実際に使っているマーケティング手法が、携帯電話などを購入した時に現金で代金の返還を受ける、いわゆるキャッシュバックである。一見、値引きと変わらないと思われるが、「安い代金で携帯を手に入れた」場合よりも、「携帯を手に入れ、さらに現金も返ってきた」場合の方が、この理論からすると携帯購入者の効用が高いのである。同様の考え方から、2つの損失は同時に被る方が、非効用が少なくて済むことがわかる。
 収入と損失の場合は、合計してプラスになる場合と、合計してマイナスになる場合に分けて考える必要がある。まず合計してプラスになる場合として、200万円の収入と150万円の損失を考えてみる。合計して50万円を得るか、200万円の収入を得てから150万円の損失を被るか、を比べるのである。これは損失から受ける非効用が、同じ金額の収入から得る効用よりも大きいということから考えると、200万円から得る効用よりも150万円を払うことによる非効用の合計は、50万円から得る効用よりも小さくなる。よって収入と損失で合計してプラスになる場合は、一度に収入を得て、損失を被った方が望ましい、とわかる。
次に合計してマイナスになる場合を考えるが、ここからさらに2つに分割して考える必要がある。収入に比べて損失がそれほど大きくない場合と、損失があまりに大きい場合である。まず損失がそれほど大きくない場合は、論文中のFigure 1a(右図上)で表されている。この図で、収入を得ると同時に損失を被る方が、収入を得た後で損失を被るよりも、効用が大きいことがわかる。逆に、収入に比べて損失があまりに大きい場合も考えよう。同様にFigure 1b(右下図)において、収入を得た後で損失を被る方が、収入を得ると同時に損失を被るよりも、効用が大きいことが示されている。
Mental Accountingは収入と損失の組み合わせに限られない。要は、心の中で効用を計算することがMental Accountingなのである。よってその他にも、賭けで負けた人が最後に大博打に出ることも、Mental Accountingを用いて、その日その時に意思決定を行っていることを示す。ここで我々はどうやらMental Accountingによって知らない間に支配されているのではないか、ということに気付く。

次の論文は、Mental Accountingの論文が発表されてから10年以上も経った後での論文で、タクシー運転手に関してのデータを集め、分析したものである。具体的には、労働時間と最初の1時間の賃金の弾力性を調べる。経済理論からは、最初の1時間の賃金が高くなれば、その分稼ぐインセンティブが増え、労働時間は長くなり、逆もまた然りであるので、労働時間は賃金に対して弾力的である、ということが予測される。しかし、実際には運転手はその日その日ごとに賃金の達成目標を決め、それが達成され次第、運転をやめるという傾向にあるため、賃金は非弾力的になった。これも運転手が自分の心の中で会計を行っている結果なので、Mental Accountingの効果である。
ここで面白いのは、経験を積んだタクシー運転手と未熟練のタクシー運転手との比較である。経験を積んだ運転手は、未熟練の運転手よりも賃金弾力性が高くなったのだ。これは経験を積むことで、一時間当たりの賃金が高い日にたくさん働き、賃金が低い日には早めに仕事を切り上げることが、より効率的に賃金を得て、余暇を消費できると分かったからである。理論上の計算では賃金と労働時間の弾力性が1になるように運転手が働くと、収益は10%増え、さらにより多くの余暇を消費できることが分かった。
このように、運転手は経験を積むことでMental Accountingから脱却することがわかる。経済理論により近い形へ、実際の人間が次第に近づくことが目に見えてわかるのが、このモデルの醍醐味であろう。

説明には「ハッピー」や「ダメージ」といった自分の言葉に変換して、聴き手にわかりやすく伝えることを心がけました。(舘川裕司)

2012年6月27日水曜日

実験経済学12: 社会的選好と、アプローチ方法としての実験

(発表担当・まとめ執筆:金良駿一郎)
 私は「社会的選好と、アプローチ方法としての実験」というタイトルの発表をしました。社会的選好とは、人の公平性や利他性に価値を見出す程度のことを指します。経済学では合理的な個人を想定して議論しますが、現実の個人は非合理的な行動をとることがあります。そこで、社会的選好がそのような行動の動機に影響を与えている場合があるのではないかと考えた研究者の方々が、実験を通してこの仮説を検証してきました。
 この発表ではその中でも「ゲーム」を用いた実験について説明しました。発表で説明したのは最後通牒ゲーム、公共財ゲーム(注1)、信頼ゲームと呼ばれるものの三つのみですが、同じゲームを用いていても、実験によって設定に工夫がなされ、異なった結果を導き出しているところが面白いと思いました。
 例えば公共財ゲーム に「罰」という設定を組み込んだ実験が興味深いです。「罰」とは参加者が自分の配分を減らして誰か一人の配分を減らす行為です。これが認められた場合と認められなかった場合では提出する金額が異なります。その結果を示したのが以下の図になります(Fehr and Gächter, 2002)。


左が「罰」ありの場合、右が「罰」がない場合です。縦軸が提出した額の平均で、横軸が実験を行った回数となっています。この図を見ても明らかなように、「罰」があった場合の方が、提出する額が多くなっています。この実験からすぐに「人間には社会的選好がある」と結論づけることはできませんが、どうやら「罰」を組み込むと提出額が増えるらしいということは分かります。そして今度は「罰」がどのようにして使われているのかを明らかにするための実験を行います。そうやって徐々に、なぜ「罰」があると提出額が増えるのかという問いに対する答えに近づいていきます。以上のようなプロセスを通して、「人間には社会的選好があるか」という問いに答えようとしてきた研究者たちの発想のユニークさと豊かさに私は印象づけられました。
 論文を読んで大勢の人の前で発表をするというのは初めてで、大変だと思ったこともありましたが、そのおかげで実験経済学というものに少しだけ触れることができ、また人に伝えるにはどうしたらよいか、ということについて考える非常に良い機会になりました。
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注1:公共財ゲームとは、別名n人囚人のジレンマゲームとも言います。n人というのは参加者が何人いても差し支えないということです。ここでゲームの説明を簡単にしたいと思います。例えば4人でこのゲームを行うとします。参加者には最初、1000円(この額も実験によって様々です)が渡され、そこからいくらかを提出することを求められます。すると全員の提出した額の合計が二倍され、それが全員に均等に配分されます。つまり頭数で割られた額が一人分の取り分となります。参加者は初めからこの分配のことを知っているので、合理的な個人であればただ乗りをすることが見込まれます。参加者全員が合理的な個人であれば、何度ゲームを行っても提出する金額が0ということになるでしょう。しかし実験では、単純にそうはなりませんでした。

参考文献

2012年6月13日水曜日

実験経済学10: Consumer Pricing

Price is defined as the quantity of payment or compensation given by one party to another in return for goods or services. Every day we observe price of commodities that we purchase, however, very little do we concern about how prices affect our decision.

In the first paper called "Shared Social Responsibility: A Field Experiment in Pay-What-You-Want Pricing and Charitable Giving" by Ayelet Gneezy et al. (2010) in Science, the authors provide an insight into price from a producer's viewpoint. Nowadays companies realize the importance of corporate social responsibility (CSR). They understand that apart from making profit, they need to be conscious of consumers' demand for companies' contributions toward society. However, CSR-related cost is often higher than their benefits. In this paper, the authors proposed a new practice of CSR called "Shared Social Responsibility" which utilizes pay-what-you-want (Consumer can choose how much they want to pay) pricing strategy to engage the social preferences of companies and their customers. The new strategy was tested in a field experiment at a riding attraction with more than hundred thousand participants. The price of the product was manipulated by two factors, pricing (either fixed price or PWYW) and existence of charity (either no charity giving or 50% of the money given to charity) resulted in four (2x2) treatments. The results clearly indicate that under PWYW and charity treatment, profit was maximized even after deducting the amount of charity.



Figure 1 Green graphs show the post-cost revenue per rider under pay what you want and charity treatment.


The second paper which represents price from a consumers' viewpoint is called "Price-Sensitive Preferences", a working paper by Mazar N., Koszegi B., and Ariely D.(2010). This paper challenges the neoclassical assumption that reservation price of a consumer, the amount an individual is willing to pay, is independent of prices he encounters in the market. A series of experiments was conducted using commonly purchased products and manipulating sets of offer to create a left-skewed price distribution (most of the prices faced in the market were relatively low) and a right-skewed price distribution (most of the prices faced in the market were relatively high). BDM procedure was also used to extract a person's preference or willingness to pay. From the result of the experiments, it could be observed that participants under left-skewed price distribution were more likely to quote relatively low reservation price whereas participants under right-skewed price distribution did the opposite. It can be implied that a consumer's reservation price is sensitive to prices faced in the market. Moreover, further experiments clarified that this dependency on price distribution was due to a mistake in expressing actual context-independent preference.


In my opinion these two papers have provided highly surprising and intriguing findings and implications yet relatively easy to comprehend. I think that the development of economic experiments both in a field and laboratory setting will eventually lead to an alternative model that can accurately illustrate the market mechanism.  (Written by Boonyada)

2012年5月14日月曜日

竹内幹ゼミ05: 依存・利他性・ニューロマーケティング

1人目の発表
2人目の発表
3人目の発表

2012年5月8日火曜日

実験経済学04:公平性・最後通牒ゲーム・神経経済学


Insula animation
島皮質(耳の上あたりの赤い部分)は
肉体的苦痛を受けた時に賦活する。
それが不公平な扱いを受けたときにも
賦活したとのこと。
キーワード:公平性、最後通牒ゲーム、独裁者ゲーム、利他的選好、不平等回避、非帰結主義、神経経済学。

公平性は、経済学のなかでも、現実の経済現象や経済的意思決定を考えるうえでも、きわめて重要です。まずはその導入として、公平性を考える代表的なゲームとして有名な「最後通牒ゲーム」を考えました。

このゲームは、1000円を2人で分ける状況で、1人が分け方を提案し、もう1人がそれに承認・拒否をして決めるというもの。受け手が承認すれば提案どおりに1000円を分けますが、受け手が拒否すれば1000円は没収されてしまい2人とも何ももらえません。
分け方を提案する人を「提案者(proposer)」、 承認・拒否 を選ぶ人を「受け手(responder)」といいます。

提案者としては、自分に多く残したいと考えます。でも、あまり不公平な分け方を提案すると、受け手がへそをまげてしまい拒否されかねません。それに、自分だけが多くもらうような提案も、なんだか受け手の人に申し訳ない気がしてきます。

「おまえの取り分はこれだけだ」
このように考えるためか、多くの経済実験で、提案者は5:5や、6:4などの比較的公平な分け方を提案しています。では、提案者は受け手の気持ちを考えて不公平な分配はいけないことだと思っているから公平な提案をするのでしょうか。それとも、不公平な提案をすると、受け手が拒否してしまうことを恐れているだけなのでしょうか。前者は、提案者に利他的な心(公平性)があることを意味しますが、後者ならば、単にリスク回避のために公平を装っているだけということになります。

この2つの動機をわけて考えるのに便利なのが、「独裁者ゲーム」です。

ゲームのルールは、最後通牒ゲームとほとんど同じです。ただし、受け手は、承認・拒否を選ぶことができません。ただ、提案者が分け方を決めて、その提案にそって1000円が2人の間で分配されます。提案者役の人は、いわば独裁者のように分配を勝手に決めてしまうわけです。この独裁者ゲームでは、提案者の多くが、9:1のような不公平な分配を選択してしまいます。最後通牒ゲームでみせた公平性は、まあ見せかけの利他心だったといえそうです。でも、6:4というような比較的公平な分配を選ぶ提案者も少数います。彼らには、利他的な心がありそうですね。
提案者から受け手への分配金額
左図が最後通牒ゲーム(拒否権あり)、右図が独裁者ゲームでの結果。
拒否権ありだと比較的公平な分配が提案されるものの...。
このように、ゲームの条件を変えていくことで、ゲームのプレイヤーの動機をあぶりだしていくのも実験経済学(そして、もちろん心理学)のしごとです。

その後、不平等回避の選好を加味した効用関数や、非帰結主義的な考え方、神経経済学の実験結果を紹介しました。

2012年5月7日月曜日

竹内幹ゼミ04: 心理会計・神経経済学

1人目の発表(心理会計):
2人目の発表(神経経済学):

2012年5月3日木曜日

竹内幹ゼミ 春合宿


八王子セミナーハウスでゼミ合宿をしました。交流を深めること、team bonding の強化が目的。初日正午からBBQをして、10人前を7人で完食、とにかく食べました。
そのあとは、ゼミ応募のときに選んだ「おすすめ書籍」を、ひとり25分で紹介。私は、10代後半の頃の本として、三島由紀夫『午後の曳航』とスタンダール『赤と黒』を朗読しました。
夕食を食べたあとは、マイケル・ムーア『キャピタリズム~マネーは踊る』を視聴。そのあと、夜遅くまでゼミテンは飲んでいたようです。翌朝は、卒論の構想をひとり10分で話し、卒論作成のイメージをもってもらいました。
BBQ 最後はヤキソバ